「警備員って、どこまで相手を止められるの?」
「交通誘導の合図には従わないといけないの?」
「警備員と警察官の権限は何が違うの?」
警備員の仕事を見ていると、こうした疑問を持つ人もいると思います。
結論から言うと、警備員には警察官のような特別な権限はありません。
警備員が行う誘導や案内は、基本的には「命令」ではなく「お願い」や「協力依頼」です。 相手を無理やり止めたり、連れ戻したり、警察官のように職務質問をしたりすることはできません。
ただし、現場では「権限がないから何もしなくていい」とは言えない場面もあります。 事故やトラブルを防ぐために、説明、声かけ、配置、連携で安全を守る必要があります。
この記事では、警備員にある権限・ない権限、交通誘導や施設警備でできること、現場で勘違いされやすいポイントを、現役警備員・管理側の視点から解説します。
警備員の仕事内容全体を先に知りたい人は、警備員の仕事内容を現役目線で解説した記事も参考にしてください。
警備員に警察官のような特別な権限はない
まず大前提として、警備員には警察官のような特別な権限はありません。
警備業法第15条では、警備業者や警備員は、警備業務を行うにあたって「この法律により特別に権限を与えられているものではない」ことに留意し、他人の権利や自由を侵害してはならないとされています。
つまり、警備員は制服を着ていても、警察官ではありません。
交通誘導で車両や歩行者に合図を出すことはあります。 施設で入館手続きをお願いすることもあります。 イベント会場で立ち止まらないよう声をかけることもあります。
ただし、それらは法律上の強制力を持った命令ではなく、安全を守るための協力依頼です。
ここを勘違いすると、現場でクレームやトラブルになりやすいです。 警備員側も、一般の人側も、「警備員に特別な権限はない」という前提を知っておくことが大切です。
警備員ができること
警備員に特別な権限はありませんが、何もできないわけではありません。
契約先や現場のルールに沿って、安全を守るための案内や確認、報告、通報などを行います。
案内やお願いをする
警備員がもっとも多く行うのは、案内やお願いです。
たとえば、工事現場で歩行者に安全な通路を案内したり、イベント会場で列の整理をしたり、施設で受付場所を案内したりします。
交通誘導でも、車両に停止や徐行をお願いする場面があります。
ただし、これは警察官の交通整理のような強制力のある指示ではありません。 あくまで安全確保のために協力をお願いしている立場です。
異常を確認して報告する
警備員は、現場で異常を見つけたときに確認し、会社や契約先へ報告します。
たとえば、不審者、不審物、設備の異常、事故、クレーム、落とし物、体調不良者などです。
警備員の役割は、現場で起きたことを早く見つけ、正確に伝えることです。 自分だけで判断して勝手に解決しようとすると、かえってトラブルになることもあります。
必要に応じて警察や消防へ通報する
事故、事件、火災、急病人などが発生した場合、警備員は必要に応じて警察や消防へ通報します。
警備員自身に捜査権限や消防活動の権限があるわけではありません。 しかし、現場で最初に異常に気づく立場になることはあります。
そのため、無理に自分で解決しようとせず、必要な機関へ早くつなぐ判断が重要です。
施設や現場のルールに沿って協力を求める
施設警備では、施設のルールに沿って入館受付や出入管理を行います。
たとえば、入館証がない、受付手続きが済んでいない、閉館後である、関係者以外立入禁止の場所である。 こうした場合には、入館や立ち入りを断ることがあります。
ただし、これは警備員個人が特別な権限を持っているからではありません。 施設側の管理ルールに基づいて対応しているだけです。
そのため、「入れません」と強く命令するよりも、「施設のルール上、入館できません」と説明する方がトラブルになりにくいです。
警備員ができないこと
警備員は安全を守る仕事ですが、何でもできるわけではありません。
警備員側が権限を勘違いすると、相手の権利を侵害したり、大きなクレームにつながったりします。
強制的に命令する
警備員は、一般の人に対して強制的に命令する立場ではありません。
「止まれ」「行くな」「そこをどけ」といった強い言い方をすると、相手から反発されやすくなります。
もちろん、危険が迫っている場面では強く声を出す必要があることもあります。 ただし、それでも基本は安全確保のための声かけであり、法律上の命令権があるわけではありません。
無理やり連れ戻す
警備員が相手を無理やり連れ戻す行為は、非常に危険です。
たとえば、歩行者誘導で相手がすり抜けたからといって、怒って追いかけたり、腕をつかんで戻したりすると、クレームやトラブルになりやすいです。
相手の身体に触れる対応は、慎重に考える必要があります。 よほど危険が差し迫っている場面でなければ、無理やり止めるよりも、声かけや周囲との連携で対応する方が安全です。
警察官のような職務質問をする
警備員は、警察官のような職務質問はできません。
不審に見える人がいたとしても、警備員が警察官のように取り調べることはできません。
施設のルールとして、受付で氏名や用件を確認することはあります。 しかし、それは施設利用のための確認であって、警察官の職務質問とは違います。
不審者対応では、無理に詰め寄るよりも、距離を取りながら状況を確認し、必要に応じて責任者や警察へつなぐことが大切です。
勝手に身体検査や所持品検査をする
警備員が勝手に身体検査や所持品検査をすることもできません。
イベント会場や施設によっては、入場時に手荷物確認が行われることがあります。 ただし、それは施設やイベントのルールに同意してもらったうえで行うものです。
相手が拒否しているのに、警備員が無理やりバッグを開けたり、身体に触れたりするのは危険です。
警備員は「確認をお願いする立場」であり、強制的に調べる権限を持っているわけではありません。
交通誘導警備員は車や歩行者を止める権限があるのか
交通誘導警備員は、工事現場や道路上で車両や歩行者に合図を出します。
ただし、交通誘導警備員の合図は、警察官の交通整理とは違います。
警察官の交通整理には法的な強制力がありますが、警備員の交通誘導は、基本的に協力依頼です。
たとえば、工事現場で片側交互通行を行っている場合、警備員は車両に停止や進行をお願いします。 歩行者に対しても、安全な通路を案内したり、一時的に待ってもらったりします。
しかし、相手が従わなかったからといって、警備員が無理やり止めることはできません。
だからこそ、交通誘導では言い方や立ち位置が大切です。 ただ強く止めるのではなく、相手が協力しやすいように、早めに合図を出し、分かりやすく案内する必要があります。
交通誘導警備の仕事内容を詳しく知りたい人は、交通誘導警備の仕事内容を解説した記事も参考にしてください。
施設警備員は入館を断れるのか
施設警備員は、施設の入口や受付で出入管理を行うことがあります。
このとき、入館証がない人、受付手続きが済んでいない人、関係者以外立入禁止エリアへ入ろうとする人に対して、入館や立ち入りを断る場面があります。
ただし、これも警備員個人の特別な権限ではありません。
施設の所有者や管理者が定めたルールに基づき、そのルールを守ってもらうよう案内しているだけです。
そのため、施設警備では言い方がかなり重要です。
「入れません」と突き放すよりも、「申し訳ありません。施設のルール上、受付を通していただく必要があります」と説明する方が、相手に伝わりやすくなります。
警備員が強く出すぎると、相手は「なぜ警備員に命令されないといけないのか」と感じることがあります。 施設のルールを伝える立場だと意識して対応することが大切です。
施設警備の働き方を詳しく知りたい人は、施設警備は楽なのか現役目線で解説した記事も参考にしてください。
交通誘導では「止めたい」と「止められない」の板挟みになることもある
警備員には特別な権限がない。 これは大前提です。
ただ、交通誘導の現場では、きれいごとだけでは済まない場面もあります。
以前、イベント警備で歩行者誘導をしていた隊員が、歩行者信号の点滅で横断を止めようとしたことがありました。 その横をすり抜けて渡ろうとした人を、警備員が怒って追いかけ、無理やり連れ戻してしまったんです。
当然、相手は怒ります。 これはクレームになりました。
正直な話、歩行者信号の点滅くらいなら、状況によっては渡り切れる場面もあります。 よほど危険な状況でなければ、警備員が無理やり止める必要はありません。 警備員に特別な権限はないからです。
ただし、同じ交通誘導でも、踏切使用停止の通行止めは話がかなり変わります。
踏切使用停止には、大きく分けて2つの形があります。
- 踏切監視員などの資格者が配置され、一定の手順で踏切を通行できるようにするもの
- 資格者を配置せず、踏切そのものを車両・歩行者ともに通行止めにするもの
ここで特に難しいのは、後者の「通行止め」として行う踏切使用停止です。
通行止めとして行う踏切使用停止では、遮断機や警報装置が作動しない状態になります。 そのため、車両だけでなく歩行者も踏切を通行できません。
この状態で歩行者が踏切内へ入ると、列車が近づいていても警報が鳴らないため、非常に危険です。
車両は比較的迂回してくれることが多いです。 しかし、歩行者は簡単ではありません。 車なら5分で迂回できても、歩行者にとってはかなり遠回りになることがあります。
さらに怖いのは、「踏切が鳴っていないなら電車は来ない」と考えて、警備員から離れた場所で線路を横断しようとする人がいることです。
踏切使用停止中は、列車が近づいていても踏切が鳴りません。 この瞬間、ただの通行止めが命に関わる危険に変わります。
だからこそ、踏切使用停止のような現場では、警備員に特別な権限がないから何もしなくていい、とはなりません。
権限がない前提の中で、説明、声かけ、配置、連携を使って、なんとか事故を防ぐ必要があります。 ここが交通誘導の難しいところです。
踏切や線路に関わる警備では、通常の交通誘導とは違う危険やルールがあります。 列車見張りや線路付近の警備について知りたい人は、列車見張りの仕事内容を解説した記事も参考にしてください。
警備員が権限を勘違いするとトラブルになる
警備員が「自分には止める権限がある」と勘違いすると、トラブルにつながります。
強い口調で命令したり、相手を無理やり止めたり、必要以上に詰め寄ったりすると、相手の反発を招きます。
現場では、警備員の言い方ひとつで、ただの案内がクレームに変わることがあります。
特に新人のうちは、「止めなければいけない」と思い込みすぎて、強く出てしまうことがあります。 しかし、警備員の仕事は相手を支配することではありません。
安全を守るために、相手に協力してもらう仕事です。
だからこそ、権限ではなく、説明力、声かけ、周囲との連携が重要になります。
警備員のミスやクレームについて詳しく知りたい人は、警備員がミスするとどうなるかを解説した記事も参考にしてください。
まとめ:警備員の役割は命令ではなく安全確保のための協力依頼
警備員には、警察官のような特別な権限はありません。
交通誘導で車両や歩行者を案内する場合も、施設で入館を確認する場合も、基本は命令ではなくお願いや協力依頼です。
警備員ができるのは、案内、声かけ、確認、報告、通報、施設や現場ルールに沿った対応です。 一方で、無理やり連れ戻す、強制的に命令する、警察官のような職務質問をする、勝手に身体検査をすることはできません。
ただし、踏切使用停止のように、通行させると命に関わる現場もあります。 そうした場面では、特別な権限がない前提の中で、説明、配置、連携によって事故を防ぐ必要があります。
警備員の仕事は、相手を従わせる仕事ではありません。 安全を守るために、相手に協力してもらう仕事です。
警備員の仕事全体をもっと知りたい人は、警備員とはどんな仕事かをまとめた総合ガイドも参考にしてください。
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